図書館リハビリ活動 茶々を入れてくれる本

うつ病と診断されたフリーライブラリアン・山本茜が、休職中に図書館にリハビリとして通って、本や図書館や本と人が出会う場について出会い、感じたことをまとめています。

 図書館の本棚の間を歩いていて、ふと最近、自分の行動や思考の衝動性が高くなっているような気がして、〝もしかして、私は、うつ病じゃなくて、「双極性障害」(うつ病より大変、一生モノというイメージがある・・)だったらどうしよう・・〟という不安がよぎった。

 うつの人は、視野が狭くなり、悲観的思考が暴走しがちである。それは意思ではなく、脳の病気のせいである。しかし、ふと暴走して、メンタルヘルスのコーナーに行って、「双極性障害」の本を手に取り、パラパラと見る。

 「うーんでも、やっぱり違うかも」と思って本を元に戻す。

 ついでに、この棚に来たし、他の本、何か見てみよう・・

「ポップスで精神医学 大衆音楽を診るための18の断章」というタイトルの背表紙が目に止まる。松本俊彦、春日武彦、齋藤環・・すごい面々が著者に並んでるなと思う。

 「精神科医が自分のこだわりのある病気をひとつ選び、同時にそれを語る際のテーマとなる一曲を選んで思いの丈をぶつけてみよう」というのが本書の趣旨。

 借りて帰って、帰りの喫茶店で読む。家に帰ってから、寝転がりながら読む。料理して、オクラを茹でている間などにパラパラと読む。

 アーティスト自身の生きる苦しさが投影されたような歌詞は確かに多いと思う。

 本書で取り扱われるのは、乖離やら、依存症やら、深刻な様相にもなる病ではあるが、精神科医それぞれが好きな曲と病への思いの丈を語る姿が愛おしい。中でも、依存症治療では著名な松本俊彦さんの自身のニコチン依存エピソードがよかった。専門家として依存症治療を語る松本氏の姿しか知らなかったが、依存症の松本氏も同時にいる。そんな中で出会った一曲、「さよならCOLOR」(SUPER BUTTER DOG)まさに依存症に向き合う治療者に向けた珠玉のメッセージのような歌詞!!それは、ダメ絶対!というでも、このまま飲んだら、死ぬよと脅すでもなく、説教をするでもない、依存症者のしたくてもできないというアンビバレンスな面も向き合い、そして優しい。そして、うつな私にも届く歌詞だった。

 他にも、中森明菜のDESIREー情熱ー、新宿2丁目版の合いの手入りがあることを知り、動画検索して、一人で笑う。「神聖かまってちゃん」っていいなぁと思う。動画を見ている時、「〜だったらどうしよう」と不安に思っているわたしはいない。メンタルヘルスの棚で出会ったこの本は、悲観的な方向に向いてる中で、笑って「茶々を入れてくれるような」本だったと思う。

 深刻な思いを抱えて、日々暮らし、図書館にも足を運んで、「うつ」の棚に手を伸ばすという人も多いと思う。答えを探して、本棚に手を伸ばす人もいるだろう。答えや未来はわからなくてもいいかと思えるのは、探しに行った先にある隣の本が、思い詰める自分に茶々を入れてくれるからである。病とともに生きるたくさんの人に、答えを差し出すだけが支援ではなく、探してる本の隣にある本で茶々を入れる、その環境をつくるのもライブラリアンのお仕事だと思う。

 

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